ソフトバンク、ARM買収のメリット

ソフトバンク、英ARMを3.3兆円で買収 正式発表(追記あり
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1607/18/news031.html
さすがにソフトバンク系メディアであるITMediaは少し控えめな記事ですね。
私は投資家的な見方はできないので、あくまで1人の半導体好きとして感じたことを書いてみたいと思います。


単純に、今回の買収はApple社が自社でCPUを作り始めたのと同様に、やがて一般化する市場にデバイスを安価でユーザーへ届けるための施策ではないかと思いました。
つまり、ロボットやDeepLearning用のプロセッサです。
ARMを買収したということは、アーキテクチャルライセンスを受けている企業(AppleやQualcommm、NVIDIAなど)のARM関連の情報を入手できるようになります。
そしてそれらの企業が今後ARMベースのDeepLearing用プロセッサなどを開発した場合、その情報をいち早く入手し、汎化したコアIPを独自に開発することが可能になります。GPUのMaliのように。


急いで独自開発にこだわる必要はないので、初期バージョンではできの良い他社製プロセッサを使い、ある程度需要を把握できたらこれまでARMがやってきたようにコスパの良い製品をデザインすることも可能です。他社製プロセッサの評価もこれまでより一足早くできるようになるので、メリットは大きいと思います。
そして情報が手に入るということは、ある程度サービス面での戦略も見えてくるということです。
Appleが始めないと普及しない」とまで言われ、IoTやスマホ市場に新しいチャレンジをし続けるApple社や、パートナーが非常に多いQualcomm社の情報が半導体レベルで見れるのは大きなメリットですし、もし特徴的な機能が半導体レベルで見つかれば、不要な競合を回避できるはずです。


ロボットはペッパーのような大型のものではなく、そのうち小型化して自動的にコンセントに装着されるようなものが普及すると仮定した場合、ハード代の大きな部分をCPUが占めると予測できます。そしてCPUを独自開発した場合に大きいのはソフトウェアや製品デザインとの融合が素早く、効率的に開発出来ることですね。AppleiPhone5sでセンサー用のコアを独自開発し、GPS使用時の消費電力が劇的に下がったことは記憶に新しいところですが、その後Appleはコスト削減を進めるため、独自開発したコアをA9プロセッサ内に統合しました。某ゲーム機がGPUを統合しようとしたときにGPU製造業者と契約でもつれてしまい、結局コストダウンに失敗したように、こうした戦略は垂直統合型でないとスピード感を持って進めることはなかなか難しいのです。


また、ARMを買収したことによってアーキテクトの囲い込みも容易になります。アーキテクトの囲い込みは世界に向けてデバイスを販売したい企業にとっては、とても重要な課題のひとつです。半導体の微細化が滞る中、性能を上げようとメモリやロジックを3D化したり、STT-RAMなど新デバイスの統合でこれまでとは全く異なる歩留まり問題に直面するなど、半導体製造はますます複雑化しています。一方でIoTによって世界中の身近な製品にCPUが組み込まれることで市場は急激に多様化しており、製造の難しさ、需要の多様化の両面でアーキテクトの果たす役割はこれまでよりもずっと大きく、重要になっています。


さらに現在Qualcommが行っているパッケージデザインの分野を、最近TSMCとの協業を進めサーバ市場にも切り込みたいARMと、モバイル向けは元よりデータセンターの会社をいくつも持ち、長年の通信業者であるソフトバンクが手を組んで行い、新たなシナジー効果を生むことは、垂直統合の面でも、水平分業の形でも十分可能と思われます。
垂直統合はもちろんグループ内での利用とグループ内で開発したパッケージの販売を指しますが、これまで同様ARM社がライセンスを販売することで、パートナーとの協業を継続し、水平分業することも可能だと思います。
ただし、垂直統合は目が出るまで4年は掛かるでしょうけどね。


そして垂直統合と水平分業を両方促進するには、サービスを持たないARM社だけでは非常に難しいです。現にGoogle社はTPUを独自開発し深層学習のシステムを自社サービスに組み込んで活用しています。この深層学習のシステムをGoogle社がサービス化して公開し、一般ユーザーが利用可能となれば、今後ARMにとって競合となることは明らかです。このM&AはARM社にとってもリスク回避のために非常にメリットがあると言えます。


そしてこのM&Aですが、国内の企業ではおそらくソフトバンクにしかできないM&Aです。昔から国内海外問わずM&Aを繰り返し、無駄だの高すぎるだの言われながらもコンピュータ雑誌や展示会など多種多様な業種と連携してきたネットワークがあるからこそ、お互いを理解しあって成立したM&Aだと思います。(たぶんね)


と、こんな感じで一人の半導体好きとしては、今回のM&Aは非常にわかりやすいメリットがあると感じています。
(ここまで読んでいただきありがとうございました。感謝!)